咳と痰のブログ

Cough& Phlegm Blog

花粉症がひどいです…どんな治療があるのでしょうか?

花粉症患者は全年齢層で年々増加し、今や国民の約50%と言われます。冬から春への季節の移り変わりに合わせ、空気中にただようスギ花粉の量も急激に増加し、花粉症で悩む人が急増してきました。

花粉の飛散時期に水様鼻水、目痒みを来たした際、花粉症※1が疑われます。

鼻水や鼻閉がなかなか良くなりません…

患者

40歳代 女性
主訴 毎年春は鼻水や眼かゆみで困っています

既往歴

気管支喘息(当院治療中)

経過

数年前からアレルギー性鼻炎で耳鼻科通院し、毎年様々な薬(抗ヒスタミン薬+抗ロイコトリエン受容体拮抗薬+ステロイド点鼻)を試しても無効だった。ビラノア+ナゾネックス点鼻使用にも関わらず、スギ花粉増加に伴い2020年2月に目かゆみ、鼻水、鼻づまり、顔皮膚かゆみ悪化した。

結果

毎年スギ花粉の飛散時期に悪化する目かゆみや鼻症状、アレルギー素因(喘息合併、IgE 848)、スギ花粉に対するIgE抗体(MASTスギIgE クラス4)から、「スギ花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)」であった。抗ヒスタミン薬や点鼻薬はほぼ全て無効であり、今回漢方薬を試した(本例は漢方的※3には実証(胃腸も強く、症状も強い)、寒熱錯雑※3(かんねつさくざつ:寒冷刺激で出現、舌紅色、眼充血、顔面ほてり)と思われ、症状も非常に強かったため大青龍湯(麻黄湯+越婢加朮湯)処方し速やかに改善した。

まとめ

アレルギー性鼻炎治療の第一選択薬は抗ヒスタミン薬(ザイザル、アレグラ、クラリチン、ビラノア、ルパフィン等)で、改善乏しいときには抗ロイコトリエン受容体拮抗薬(オノン、キプレス等)や点眼薬、ステロイド点鼻薬(アラミスト点鼻、ナゾネックス点鼻)等が使用されます。しかし中には無効例もあり、その際漢方的なアプローチが奏功することは少なくありません。

花粉症患者は全年齢層で年々増加し、今や約50%が花粉症患者と言われ、花粉の飛散時期※2水様鼻水、目痒みを来たした際、花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)が疑われます。花粉から回避を指導すると同時に症状緩和にため薬物療法がおこなわれます。くしゃみや鼻水、目痒みには即効性のある抗ヒスタミン薬が第一選択薬ですが、鼻閉には抗ヒスタミン薬は効果は弱いことがあります。鼻閉には抗ロイコトリエン受容体拮抗薬やステロイド点鼻薬が有効なことが多いです。

※1.花粉症とは?

花粉症とは「花粉をアレルゲンとしたI型アレルギー反応(過敏反応)」「くしゃみ」「鼻水」「鼻づまり」(鼻炎の3大症状)、および「目かゆみ」「流涙(りゅうるい)」(眼症状)、時に「喉」や「皮膚」症状を来します。花粉(アレルゲン)に対する特異的IgEが産生され、花粉と反応したIgEが肥満細胞に結合するとヒスタミンやロイコトリエンが放出され、炎症を起こします(図1)。

花粉の侵入口である目や鼻の粘膜(時に口腔内)に主な症状が出ます。

図1.花粉症は花粉をアレルゲンとしたI型アレルギー

 

※2.花粉の飛散時期

関東エリアでは主に春花粉はスギ(1~7月;ピーク2~4月)、ヒノキ(1~7月;ピーク3~4月)、ハンノキ(1~6月:ピーク3~4月)、イネ科(2~12月:5~6月>8~9月の2峰性)、秋花粉はイネ科(2~12月:5~6月>8~9月の2峰性)、キク科のブタクサとヨモギ(7~12月;ピーク8~10月)に飛散するので、その時期に花粉症症状を来します。

一方通年性鼻炎では室内塵(埃、ハウスダスト)やダニによる通年性アレルギー鼻炎や慢性副鼻腔炎などを疑います。

図2.関東エリアの花粉流行期

 

※3.寒熱錯綜(かんねつさくざつ)

人体が寒冷にさらされたときの反応をイメージしてください。例えば冷水を浴びれば、「顔は青ざめ」、「透明な鼻水」が出て、ガタガタ(「寒気」)震えますね?同様に「冬の寒い時期(1月~2月初旬)」の花粉症は「透明な鼻水」「青白い顔」「寒気」(寒証という)を来たしやすく、温める漢方薬(温薬:小青竜湯、麻黄附子細辛湯等)が良く効きます。一方気温の上昇と共に悪化する初春(3月~4月)の花粉症は鼻や目、喉がかゆくなり、鼻や目が赤く、鼻水も粘調(ねんちょう)で鼻閉も来たしやすく(熱証という)、冷やす漢方薬(桔梗石膏、五虎湯、越婢加朮湯、清上防風湯等)が効きます。両者の性質を持つ場合、つまり「寒熱が混在」、これを「寒熱錯雑(かんねつさつざつ)」といいます。その際には温める漢方薬と共に冷ます薬(小青竜湯+五虎湯、麻黄湯+越婢加朮湯等)を併用します。

花粉症の一般的な治療は?

花粉症の治療は一般的に以下1)があります。

①花粉の除去と回避

②薬物治療(経口薬(抗アレルギー薬、漢方薬)、点鼻・点眼薬)

③特異的免疫療法(減感作療法)

④手術療法

 

①花粉の除去・回避

②薬物療法

 抗ヒスタミン薬は主にくしゃみや鼻水に使用され、即効性のため第一選択薬です。

 鼻閉(鼻づまり)には抗ヒスタミン薬は効果は乏しいことが多く、ロイコトリエン受容体拮抗薬やステロイド点鼻が使用されます。他のケミカルメディエーター阻害薬(インタール、リザベン、スプラタル酸)は効果がゆっくり(1-2週間)で、他剤が無効の際に適宜追加します。

 漢方薬は抗ヒスタミン薬でみられる副作用(眠くなる,口渇等)はなく、有効例では即効性(20~30分)で有用性は高いです。難治例にも有効なことも少なくなく、しかも安価です。

 点鼻ステロイド薬は非常に有効かつ安全性が高く、中等度以上の鼻炎症状がある際には使用されます。

 抗IgE抗体(ゾレア) IgEをブロックし高い効果を示しますが、非常に高価です。他剤無効例に使用します。

 図3.花粉症に対する治療法の選択1)

 

 ③アレルゲン免疫療法

 原因物質であるアレルゲン(スギ花粉エキス)を少量から徐々に増やしながら繰り返し投与することで、体をアレルゲンに慣らし症状を緩和する治療法で、根本的な体質改善(長期寛解・治癒)を期待しえます。花粉時期は症状悪化が懸念されるため、非花粉時期(花粉飛散の3か月以上前から開始)に治療を開始します。1年目は軽度の効果、2年目は抗ヒスタミン薬と同程度、3年目は点鼻ステロイド点鼻と同程度の効果とされています。

④手術療法

 鼻粘膜縮小(凍結・レーザー焼却・切除等)や鼻閉改善を目的に行われるが、効果が乏しい場合や再発することがあります。

漢方薬にいる花粉症治療

アレルギー性鼻炎を漢方医学的にみると外因(外から攻撃してくる外邪(がいじゃ))とそれに対応する内因(体質的な素因)とが絡み合って発症してくる病気です。外因としては花粉や埃(ほこり)などのアレルゲンや寒冷刺激、温度差などがあります。内因(体質的な素因)では鼻腔の周辺に余分な水分にあり(水滞(すいたい))、これが外因により目や鼻からあふれ出る状態です。体表面近くの水を除去する作用のある麻黄(まおう)は即効性があり、麻黄を含む漢方薬(麻黄附子細辛湯、小青竜湯、麻黄湯、越婢加朮湯)は有効例ではわずか20-30分で症状が改善します。

寒冷刺激で症状が悪化する場合や多くの水様鼻水には小青竜湯が有効例が多く、漢方薬では第一選択薬です。高齢者や冷え性が強い症例では麻黄附子細辛湯や小青竜湯加附子が、またこれらで胃もたれなどを来たす胃腸虚弱者には苓甘姜味辛夏仁湯が使用されます。もし小青竜湯で効果が乏しい場合や熱証(痒みや鼻閉伴う)では、冷やす薬(石膏)を追加(桔梗石膏や越婢加朮湯等)します。

寒証(くしゃみ、透明な鼻水>鼻閉、鼻粘膜蒼白、寒冷で悪化)

小青竜湯(±附子±川キュウ茶調散)

第一選択薬

 

麻黄附子細辛湯(±川キュウ茶調散) 冷え性
苓甘姜味辛夏仁湯±附子 胃弱
熱証(透明~粘性鼻水>鼻閉、鼻粘膜発赤、舌紅、かゆみ、口渇) 小青竜湯+桔梗石膏or五虎湯 小青竜湯で無効例
越婢加朮湯 流涙
大青龍湯(=麻黄湯+越婢加朮湯) 特に強い痒み伴う場合
鼻閉主体 葛根湯川きゅう辛夷 肩こり

小青竜湯+五虎湯

大青龍湯4)

小青竜湯で無効例

 

参考資料

1)鼻アレルギー 診療ガイドライン ー通年性鼻炎と花粉症ー 2016年版

2)梁哲成:三大法則で解き明かす 漢方:中医学入門ーきそ基礎理論とエキス製剤による臨床ー第3版

3)高山宏世:弁証図解 漢方の基礎と臨床 第11版

4)大野修嗣:漢方学舎 実践編2臨床カンファレンス実体験 第一刷